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奈良地方裁判所 昭和22年(ワ)17号 判決

被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し金一万五千円及びこれに対する昭和二十二年二月二十一日以降完済に至るまで年六分の割合に依る金員を支拂わねばならない。

原告(反訴被告)の其の余の請求を棄却する。

被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

訴訟費用中本訴の分は三分し其の二を原告(反訴被告)の負担、其の余を被告(反訴原告)の負担、反訴の分は被告(反訴原告)の負担とする。

本判決は原告(反訴被告)において金五千円の担保を供するときは原告(反訴被告)勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

二、事  実

原告(反訴被告、以下單に原告と略称する)訴訟代理人は、被告(反訴原告、以下單に被告と略称する)は原告に対し金四万五千円並びにこれに対する昭和二十二年二月二十一日以降完済に至るまで年六分の割合に依る金員を支拂わなければならない。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、其の請求の原因として、被告は朝鮮全羅南道光州府に在住中朝鮮樹脂工業所という商号で漁網用染料の製造販賣業を営む商人であつたところ、昭和十九年十二月二十六日大邱府に居住する原告との間に商品賣買契約を締結した。その約旨として、被告は其の製造に係る漁網用染料を全部原告に供給賣渡し、原告において一手に買受け販賣すること、原告は現品の引渡を受ける都度三十日以内に代金を支拂うこと、原告は右賣買契約履行の担保として被告に対し金一万五千円を提供すること、並びに被告は原告に対し昭和二十年一月以降毎月平均最小限度八百叺の製品を供給引渡すことを定め、原告は右約旨に從い昭和十九年十二月三十一日右担保金一万五千円を被告に交付した。原告は昭和二十年一月初旬朝鮮慶尚北道漁業組合聯合会より漁網用染料の註文を受けたので、直ちに被告に対し至急千三百叺の製品の送荷方を請求したのに、被告は同年五百叺を送荷しただけで同年三月に至り残余の八百叺分の註文請書を差入れたが、原告より再三督促したのに被告は履行しないうちに同年八月十五日太平洋戰爭終了し、同年十月秘かに製造工場を他に賣却して本籍地たる現住所に帰來した。原告は右終戰の情勢に伴い必ずしも契約の完全履行が可能であるとは考えないけれども、万一幾分かの履行が可能と考えると共に右契約の完結を期するため被告に対し昭和二十二年一月十八日附書面を以て同書到達の日より二十日以内に右契約の履行あり度き旨催告し、併せて右期間内に履行しないときは、二十日の期間満了と同時に前示契約を解除する旨條件附契約解除の意思表示を発し、右書面は同年一月三十一日被告に到達した。然るに被告は右書面所定の催告期間内に履行しなかつたので前記賣買契約は同年二月二十日限り解除せられたのである。よつて被告は原告に対し現状回復として前記担保金一万五千円を返還すると共に被告の契約不履行に因り原告の被つた損害を賠償すべき義務あるところ、其の損害の数額は原告の言明するところに依れば、被告の原告に賣渡す價格は單價十九円で原告の轉賣價格は單價二十三円で一叺につき金四円の割合に依る合計金三万円が被告の契約不履行により原告が得べかりし利益を喪失したことにより被つた損害である。よつて茲に被告に対し右契約担保金及び損害賠償金三万円計金四万五千円及びこれに対する契約解除の翌日たる昭和二十二年二月二十一日以降完済に至るまで商法所定の年六分の割合に依る利息金の支拂を求めるため本訴に及ぶと陳述し、被告の答弁事実を否認すると述べ、

反訴につき被告の反訴請求を棄却する。反訴訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、答弁として、被告の主張事実中被告が本件契約前毎月金三千円の利益を挙げていた事実は爭わないけれども其の余の事実を否認する。甲第一号証契約書第三條は履行場所が被告の貯藏所と定めたときの例外の場合に関する特約を示すものであつて、契約当事者間においては商品は原告の請求しだい直接原告の発註先に送付する旨を確約したのである。被告は原告の度々の請求あるにもかゝわらず約定の数量を送付しないで一手販賣契約の趣旨に違反し、製品を悉く他に賣捌していたのであるから被告の反訴は失当であると陳述した。<立証省略>

被告訴訟復代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、原告の主張事実中被告が朝鮮において朝鮮樹脂工業所を経営していたこと、原告主張の各日時原告が被告との間に被告の生産する漁網用染料の一手販賣契約を締結し、原告より右契約担保金として金一万五千円を受領したこと、原告と訴外朝鮮慶尚北海漁業組合聯合会との間に右漁網用染料の取引あつたこと、被告が原告主張の日時商品五百叺を原告に送付したこと、被告が原告主張の日時原告に対し八百叺の註文請書を差入れたこと、及び被告が原告主張の日時其の主張の催告並びに條件附契約解除の通知を受けたことは認めるが、其の余の事実を否認する。右契約において被告が昭和二十年一月以降毎月最小限度八百叺を供給することを原告に約したことはなく、被告が原告に送付した右五百叺は前記八百叺の註文請書による引渡である。前記契約において原被告双方は受渡を朝鮮全羅南道光洲府須奇屋町における被告貯藏所においてする旨確約したところ、昭和二十年二月以降貨車の入手極度に困難となり、被告が使用人岩瀬誠男をして連絡させ再三原告に貨車を廻わすよう督促し度々電話、電報、郵便等で催告したが原告は應じなかつた。被告の製品は契約上原告の負担する商品引取義務を原告において履行しないため滞貨するばかりで、其のまゝ推移すれば愈々経営困難となるのでやむなく昭和二十年三月二十日海軍燃料廠の許可を受けて同年四月以來漁網用染料の製造を中止して設備費金十二万円を投じて松根油製造に着手し同年六月より操業を開始したが、遂に收益を挙げないうちに終戰となつた。被告は同年三月二十八日應召し同年八月二十五日復員したが工場を賣却しようにも買手がなかつたので使用人朝鮮人訴外平田善太郎外数名に工場を移讓して帰国したしだいである。從つて原告の本訴請求は失当である。仮りに原告の本訴請求権の成立が是認されるものとすれば、被告の反訴請求債権と対当額において相殺すると陳述し、

反訴につき原告は被告に対し金五万千十円及びこれに対する昭和二十二年五月二十一日以降完済に至るまで年六分の割合に依る金員を支拂わなければならない。反訴訴訟費用は原告の負担とする旨の判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、其の請求の原因として、被告は朝鮮全羅南道光洲府において昭和十三年以來漁網用染料の製造販賣業に從事し昭和十九年十一月までは毎月純利益金三千円を挙げていたところ、同年十二月以降原告が前記一手販賣契約による引取義務を履行しないため、被告は昭和二十年二月五百叺を出荷しただけで製品は同月より翌二十年三月まで月平均四百叺入宛計千六百叺を被告において製造し、内五百叺を差引き千百叺は原告の債務不履行により被告の貯藏所に滞貨した。しかるに昭和二十年七月頃朝鮮一帶を襲つた暴風雨のため右貯藏所倒壞し製品千百叺は水に濡れ全く廃品に化し全損となつた。此の損害は全羅南道告示第二百四十四号に依る漁網用染料正味十貫入叺当り公定卸價格金十九円十銭の割合に依る千百叺分金二万千十円で、これは原告が引取つておれば被告に生じなかつた損害であり原告がそれを賠償すべき責任を負担すべきである。又原告が商品を一手に引取る契約をしながら引取らないため前記のように営業を轉廃したのであるが、若し原告が誠意を以て漁網用染料を賣捌き引続いて商品を引取つたならば被告の貯藏所は滞貨しなかつたばかりでなく、松根油製造への設備換もせずにすんだのである。しかして漁網用染料は冬季よりも夏季において製造高上昇するのが例で昭和二十年四月以降製造を続けておれば四月五月は毎月五百叺、六月より十月までは毎月平約千叺、計六千叺製造できた筈である。叺当り卸賣公定價格金十九円十銭として金十円の利益は下らなかつた。六千叺の製造販賣による得べき利益は金六万円であるが、空襲激化等の事情により右の半分を製造したとしても金三万円は被告の得べかりし利益であつて、全く原告の債務不履行によつて被告の喪失した通常の損害金で原告において賠償の責あること勿論である。よつて被告は原告に対し改めて右契約を解除し右損害金合計五万千十円及びこれに対する反訴状送達された昭和二十二年五月二十一日以降完済に至るまで商法所定の年六分の割合に依る遅延損害金の支拂を求めると陳述した。<立証省略>

三、理  由

本訴並びに反訴は主として我国がポツダム宣言を受諾した以前において、日本に国籍を有する原被告双方が朝鮮においてなした法律行爲の成立及び効力に関する民事上の爭訟であつて、法律行爲の成立の当時において朝鮮において現行民法中第三編債権に関する規定、商法中商行爲に関する規定と同一の民事法規がそれぞれ制令として施行せられ、又明治四十四年三月法律第三十号に依り貨幣法が同地に施行せられていたことは当裁判所に顕著な事実であつて、共通法の廃止せられた結果適用すべき法律は專ら法例第七條に依り定むべきところ、原被告双方が訴訟係属後昭和二十二年八月二十六日の口頭弁論期日において日本の法律による意思を表明したことが記録上明白である。よつて本案につき按ずるに朝鮮全羅南道光洲府において朝鮮樹脂工業所なる商号の下に漁網用染料の製造販賣業を営んでいる被告と居住する原告との間に原告主張の日時毎月の供給数量の点を除いて原告主張の約定による被告の右商品一手販賣契約を締結し、原告が其の主張の日時契約担保金一万五千円を被告に交付したことは本件当事者間に爭がない。成立に爭がない甲第四号証同第十一号証の一、二原告本人の供述に依り成立を認め得る同第五号証の一、二並びに原告本人訊問の結果に依れば、原告が右販賣契約に基いて昭和二十年一月二十日頃朝鮮慶尚北道漁業組合聯合会より漁網用染料千三百叺の註文を受けて被告より同年二月中内五百叺の送付を受けたが、残八百叺につき被告より同年三月十二日附右漁業組合聯合会納入の註文請書の送付を受けたが、再三出荷方を督促したのに被告は後段認定の事情の下に引渡さないまゝに終戰となり、被告が他人に製造工場を讓渡し同年十月頃日本に帰国したことを認定するに足りる。これに牴触する被告本人の供述は信用し難く、被告の其の余の立証に依るも右認定を左右し得ない。原告は右契約において被告が原告に対し昭和二十年一月より毎月最少限度八百叺宛を引渡す旨確約したのに内五百叺を引渡したゞけで同年十月まで十ケ月間の約定供給数量八千叺より右五百叺を差引き残合計七千五百叺の引渡債務を履行しないので原告は右契約関係を結了させるため、昭和二十二年一月二十八日附書面を以て被告に対し同書面到達の日より二十日内に契約の履行をすべき旨催告し、若し右期間内に履行をしないときは催告期間満了と同時に解除する旨の催告並びに條件附契約解除の通知を発し、右書面が同月三十一日被告に到達したのに被告が右期間を徒過したので右一手販賣契約は同年二月二十日限り解除せられたから、被告の右引渡債務履行の遅滞なかりせば一叺につき買入單價金十九円と轉賣價格二十三円との差額金四円の割合に依る右七千五百叺の原告の得べかりし利益金三万円を被告の債務不履行により喪失したから、被告に対し右損害の賠償を求めると共に現状回復として契約担保金の返還を求める旨主張し、原告主張の右履行の催告並びに條件附契約解除の意思表示が原告より被告になされたことは当事者間に爭がないところ、被告は右契約において被告が工場において製造する商品を悉く原告に賣渡す旨を約したので供給数量を予め取極めたのではない。且つ双方面に契約書(甲第一号証)第三條に明記する通り特に商品の受渡場所を被告の貯藏所と定めたので被告が製品を叺包に包装し工場より右貯藏所に搬入し其の数量を原告に通知することにより被告の給付としてすべき行爲を悉く完了し原告においてこれを引取るべき約旨であるところ、被告は右契約により昭和二十年一月以降四月まで現実に毎月四百叺宛合計千六百叺を製造しこれを順次右貯藏所に搬入し、其の都度其の数量を原告に通知して引取を求めたのに原告は内五百叺を引取つたのみで残千百叺は被告より度々督促するも引取義務を履行しないので已むを得ず被告は同年四月以降右商品の製造を中止するに至つた旨抗爭するから、其の当否を按ずるに成立に爭がない甲第一号証、同第十二号証の一、二、前示同第四号証、第十一号証の一、二、原告本人の供述に依り成立を認め得る甲第八号証の一、二並びに原被告各本人訊問の結果を合せ考えると、原被告双方が右契約において甲第一号証商品賣買契約書第三條に商品の受渡場所を被告の貯藏所と指定し、原告が現実に受渡に協力しないときでも、被告が包裝荷造の上工場より製品を右貯藏所に移し、其の数量を原告に通知したとき引渡行爲は完了し爾後保管料、運賃は勿論滅失による危險はすべて原告がこれを負担する旨取決めたところ、原告が大邱府において貯藏場所を設置し且つ相当の販路を拡張するまで当分の間右約旨に依らないで受渡場所を原告の指定する仕向先とし、貯藏所より右仕向先までの運賃を原告の負担とする旨を約し、且つ引渡数量につき被告の生産能力より割出して昭和二十年一月より五月まで一ケ月平均四百叺程度同年六月以後は其の倍数の限度において原告の指示する数量を原告の註文先へ供給出荷することを定めたこと、原告が右約定により朝鮮慶尚北道漁業組合聯合会より註文を受けた千三百叺を被告に指示して出荷を求めたところ被告は内五百叺を送荷し更に同年三月中頃より内二百叺の貨車積の準備に盡力したが、太平洋戰爭の激化に伴い鉄道貨車が極度に不足し約定品を原告指定の仕向地へ出荷することが事実上不可能となつたゝめ、被告が其の後の製品を全羅南道の業者に販賣したこと、原告においても貨車の入手に努力したが徒労に終り、買入價格叺当金二十円五十五銭と慶尚北道の卸賣公定價格金二十三円との差額の利益金では、到底鉄道以外の運賃を賄うことができなくなつたゝめ、販路の拡張を見合せていたことが認定でき、これに牴触する原告及び被告各本人の供述部分はいずれも信用し難く原被告其の余の立証に依るも右認定を左右することができない。

叙上認定のように商人間の継続的商品供給販賣買契約において予め賣買の数量又は存続期間の取決がないとき契約締結の当時双方に予見できなかつた事情のため約定の商品を引渡すことが事実上至難となり、買主においても價格統制の枠内において運賃を支弁して商品を引取ることが採算上不能となつた場合においては、別段の事情の認むべきものがない限り賣主買主双方の責に帰することのできない事由によつて双方の負担する債務を契約の本旨に從い履行することが事実上並びに経済上不可能に陥つたものと認めることができ、しかも其の障害が何時除去されるか双方に予見できない本件のような場合信義衡平の原則上双方は契約の目的を達することができない已むを得ない事由ある場合として、何時でも一方的に継続的賣買契約を解除し将來に亘り契約による義務を免れることができると共に賣主は契約解除の有無にかゝわらず、買主に対し不特定物たる商品の引渡が可能となるときまで給付債務を免れると同時に反対給付の請求をなし得ないものと解するのが商法第五百二十五條民法第五百三十六條の法意に鑑みるも妥当といわねばならない。從つて原告の被告に対してした叙上履行の催告は前記障害の除去されたことにつき立証ない以上法律上無効であるけれども右條件附契約解除の意思表示は原告の被告に対する前示一方的解除権の行使として有効と解すべきであるから、被告は原告に対し前記契約担保金一万五千円を返還すべき義務あること勿論であつて原告の被告に対し右金一万五千円及びこれに対する右金員授受の日以後である昭和二十二年二月二十一日より商法所定の法定利息金の支拂を求める本訴請求部分は正当といわねばならない。しかしながら被告が前段認定の通り既に履行した五百叺以外の商品につき引渡債務を免れた以上被告の本件契約により原告に対し負担する商品引渡債務の履行に代わるべき填補賠償を求める原告の本訴請求部分は、爾余の点の判断をするまでもなく失当として棄却を免れない。よつて進んで被告の反訴請求につき按ずるに被告は(一)昭和二十年一月より同年四月まで毎月四百叺計千六百叺を製造し、荷造の上受渡場所たる被告の貯藏所に搬入し、其の都度数量を原告に通知し再三引取方を催告したのに原告は内五百叺を引取つただけで残千百叺につき引取義務の履行を怠つたため同年七月の暴風雨のため右貯藏所倒壞し滞貨千百叺は水浸しとなり全損に帰したから全羅南道施行の統制價格正味十貫入一叺当金十九円十銭の割合に依る金二万千十円は原告の右債務不履行によつて被告の被つた損害であるから、被告は原告に対し右損害賠償債権を有する旨主張するけれども、商人間の商品一手販賣契約においても別段の契約ない限り買主は供給者たる賣主の製造する製品を悉く約定代金を支拂つて買取る契約上の義務を負担するだけであつて賣主の現実に履行の提供する商品を受領する契約上の債務をも負担するものでないと解すべきであるから、被告のいう引取債務即ち受領義務の不履行を理由として、該債務に代わる填補賠償として給付の目的物其のものの價額の賠償を求める被告の右反訴請求は其の主張自体理由がない。又仮りに被告の右主張が右千百叺につき被告が現実に引渡行爲を完了したことを前提として被告に対し其の代金債権を取得したことを主張し、或は右千百叺につき被告が契約上なすべき給付行爲を完了し民法第五百三十六條第二項所定の集中を生ぜしめたから其の滅失による危險を原告において負担し被告が右給付の目的物の代金債権を有する趣旨を主張するものと解するも、本件契約において原被告双方が当分の間商品引渡場所を原告の指定する仕向先とし被告は商品を運賃原告の負担で原告の指定する場所え送貨し、仕向先に現実に到達したとき引渡あつたものとする約定であることは前段認定の通りであるところ、被告が其の主張の千百叺を現実に製造し且つ原告に対し引渡すための準備行爲に着手したことは、被告提出援用のすべての証拠に依るもこれを肯認するに足りない。却つて前示甲第十一、第十二号証の各一、二及び証人石井米松の証言並びに被告本人の供述に依れば被告が原告の指示により昭和二十年二月五百叺を送荷し同年三日二百叺を荷貨すべく光州駅の貨車に積込もうとしたが積卸されたので已むなくこれを相当價格で自己のために他に賣却し、其の後の製品も自己のために他に賣却しようとしたが七百叺の製品が滞貨し被告主張の日時その主張の災害を受けたことが推認できる。してみれば右千百叺につき被告主張の金二万千十円の損害賠償債権又は同額の代金債権成立した旨の被告の右主張は其の余の判断をするまでもなく失当であるから、被告の原告に対し右金員の支拂を求める反訴請求部分は理由がない。被告は(二)原告が被告の製造した製品を一手に引取る旨契約しながら引取らないため製造を廃止するの余儀なくされたのであるが、若し原告が本件契約を履行したならば被告は同年五月以降十月まで毎月千叺宛合計六千叺を製造供給することができ叺当金十円の利益合計金六万円を被告が得べかりしに原告の引取債務不履行により空襲激化の事情を参酌しても、なお少くとも金三万円の得べかりし利益を失い損害を被つたから、被告は原告に対し同額の損害賠償債権を有する旨主張するけれども、前段認定の通り原告被告双方の責に帰することのできない事由により、契約の本旨に從う商品引渡の給付が不可能となり右事由の存続する限り被告は商品引渡の債務を免れると共に反対給付の請求権を失うものである。以上被告の給付を事実上並びに経済上不可能ならしめる事由の除去されたこと又は右障害を排除するにつき原告被告間に別段の取決のなされたことを認むべき証拠がない限り、被告が原告に対し対價関係に立つ代金債権の存在することを前提として其の履行に代わる消極的損害賠償を求める被告の右請求も亦理由ないものといわねばならない。けだし被告の立場よりすれば貨車不足による送荷の困難は事実上の問題で経済上運賃が原告の負担である以上鉄道以外の輸送方法によれば引渡の行爲自体は可能であるけれども取引繼続の結果原告に著大な損害を強いる結果となること多言を俟たないところであり、かくてこそ民法第五百三十六條は斯る場合契約の危險は債務者たる賣主をして其の負担を受けさせる法意であることにかんがみるも自から明かである。果してそうであるならば被告の原告に対する金三万円の損害賠償債権の履行を求める反訴請求部分も亦爾余の点の判断をするまでもなく失当といわねばならない。從つて被告が前示(一)(二)の各債権の成立することを條件として仮定的にこれ等を自動債権として原告の本訴請求権と全部又は一部につき対当額において相殺する旨の仮定的抗弁も亦採用するに由がない。仍て原告の本訴請求は前示認定の限度において認容し、其の余の部分及び被告の反訴請求をいずれも棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十二條仮執行の宣言につき同法第百九十六條第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 南新一)

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